革靴の踵(かかと)の穴「タックホール」についてのお話

革靴(ビジネスシューズ・ドレスシューズ・紳士靴)の両足のかかとに開いている貫通した小さな穴について説明します。


革靴(ビジネスシューズ・ドレスシューズ・紳士靴)の両足のかかとに開いている貫通した小さな穴「タックホール」
(写真の靴:PARASHOE ハンドメイド 内羽根式ストレートチップ

靴(メンズの革靴・ビジネスシューズ・紳士靴)を、永くインターネットで通信販売(ネット通販)させていただいておりますが、革靴をお求めいただいたお客様から意外と多くいただくお問い合わせの一つが、踵(かかと)に開いた小さな穴についてです。
穴は、両足の踵に開いており、非常に小さく、貫通しています。
不良品なのでは?」と思われ、お問い合わせをいただくことが多いです。

タックホールに通した商品タグやプライスタグ(値札)

また、その穴が商品タグや値札などを付けるのに利用されている(関連ページ:靴に下げ札を付ける方法)ことから、そのために開けられた穴だと勘違いされがちですが、実は製造時に開けられた穴で、もともと開いている穴なのです。
この、かかとの穴のことを「タックホール」と呼んでいます。
タックホールは、靴製造(製靴)時の、アッパー(甲革)を木型に釘で仮止めすることでできる穴で、職人が一足一足手作業で製造した靴にしかない穴なのです。ですので、不良品ということでもありませんし、むしろ大量生産品にはない高級紳士靴に多くみられます。
また、パンプスなど高級婦人靴にも同様の穴がある場合もあります。

製靴(靴製造)時に踵(かかと)に打たれた釘

上の写真は、グッドイヤーウェルト製法で靴を製造している国内の製靴工場での写真です。かかとに釘が打ってあるのがおわかりいただけると思います。
グッドイヤーウェルト式とは、ハンドメイド(ハンドソーンウェルテッド式)だった靴を、底付けのための縫いの工程だけ機械化した製法で、ほぼハンドメイドといえる伝統的かつ代表的な革靴の製法の一つです。甲革(アッパー)を木型(ラスト)に釣り込み形成する工程時に、木型に踵を釘で仮止めする必要があり、その際にこの穴「タックホール」ができます。グッドイヤーウェルト式だけでなく、マッケイ式、ハンドソーンウェルテッド式などの製法の種類に関係なく、職人の手作業によって釣り込まれた靴には、すべてこの穴がみられます。逆に、最近では多く見られるタックホールのない靴というのは、釣り込み工程を機械化した靴ということになります。

革靴製造時の職人が釣り込みを行う作業工程の様子
職人が釣り込みを行う作業工程の様子


なお、「タックホール」という呼ばれの所以は、靴業界では、釘(くぎ)のことをタックスと呼ぶことが多いので、タックスでできた穴(ホール)「タックス+ホール」という意味からだと思われます。

(写真・文/靴のパラダイス店長 大嶋信之