グッドイヤーウェルト製法とマッケイ製法の違い・見分け方と、ブラックラピッド製法について
製靴法が多様化した現代の紳士靴では、その靴が何の製法で製造されたか、見た目で判別することはなかなか難しいと思います。その中でも、紳士靴の代表的な製法である、「グッドイヤーウェルト式」と「マッケイ式」の、二つの製法の違いと見分け方を簡単に解説させていただきます。
また、二つの製法の特徴を持ち合わせた「ブラックラピッド式」についても説明します。
▼構造の違い
▼外観の違い
▼縫いの違い
▼まとめ
▼ご参考:グッドイヤーウェルト製法とマッケイ製法の商品紹介
▼ご参考:グッドイヤーウェルト製法とマッケイ製法で修理した靴
▼ブラックラピッド製法
▼ご参考:ブラックラピッド製法で修理した靴
(文・写真・イラスト/靴のパラダイス)
1、構造の違い
a、グッドイヤーウェルト式製法
中底と甲革(アッパーとも呼ぶ)、コバ(細革、ウェルトとも呼ぶ)の三つを縫いつけ(すくい縫いと呼ばれる)したあと、ウェルトに表底(本底、アウトソールとも呼ぶ)を縫いつけ(出し縫いと呼ばれる)する製法です。(ご参考:グッドイヤーウェルト製法の詳細)
<グッドイヤーウェルト製法の特徴>
製靴部品も多く、作業工程も複雑なため、重量のあるがっちりした靴になります。その分丈夫で実用性が高く、ソール交換などのメンテナンスもしやすいことが特徴です。アメリカ、イギリスなどの紳士靴に多く見られます。
b、マッケイ式製法
甲革(アッパー)と中底(ない場合もある)を直接、表底(アウトソール)と縫いつけ(マッケイ縫い、またはアンズ縫いと呼ばれる)する製法です。 (ご参考:マッケイ製法の詳細)
<マッケイ製法の特徴>
甲革を直接ソールと縫い付けることにより、返り(屈曲性)がよく、軽量で、馴染むと足を包み込むような履き心地になることが特徴です。ローファーなどのスリッポンシューズ、イタリア靴紳士靴などに多く見られます。
2、外観の違い
a、ウェルトの違い
写真上が、グッドイヤーウェルト式製法で造られた紳士靴のウェルト外観。
写真下が、マッケイ式製法で造られた紳士靴。
グッドイヤーウェルト式のほうが、ウェルト(コバ)の張り出しが大きいことがわかります。ウェルトとソールが縫われているからです。ただ、グッドイヤーウェルト式でも、ドレッシーさを演出するために、ウェルトをぎりぎりまで削りこまれているものもありますし、マッケイ式でもダミーの縫い目のあるウェルトがついている場合もありますので、ウェルトだけでは区別できない場合があります。
b、アッパー(甲革)形状の違い
写真左が、グッドイヤーウェルト式製法で造られた紳士靴。(写真の靴:PARASHOE コンビウィングチップ)
写真右が、マッケイ式製法で造られた紳士靴。
グッドイヤーウェルト式の方が、ソールに向かって強い丸みを帯びています。つり込んだアッパーをすくい縫いすることで、この丸みが生まれます。マッケイ式も丸みがあるため、これだけでは判別は難しいですが、グッドイヤーウェルト式の靴の場合は、履き馴染んだあとまでこの丸みが維持されるのが特徴です。
3、縫いの違い
a、アウトソールの縫い目の位置とピッチの違い
写真は、当店でグッドイヤーウェルト式とマッケイ式で修理した靴2足の写真です。(※靴修理ページ)
写真左が、グッドイヤーウェルト式製法の紳士靴のソール。 写真右が、マッケイ式製法の紳士靴のソール。
写真ではわかりずらいかもしれませんが、マッケイ式(右)のほうが、グッドイヤーウェルト式(左)に比べ、ソールの内側に縫い目があることがわかります。マッケイ式はアッパー(甲革)の中底に直接ソールを縫いつけてあるのに対し、グッドイヤーウェルト式は外側のウェルト(コバ)にソールを縫いつけてあるからです。また、縫い目のピッチ(縫い穴と縫い穴との距離)がマッケイ式の方が荒く、グッドイヤーウェルト式の方が細かいのが一般的です。マッケイ式の場合は(ソールを)中底に直接縫うという製法上、あまりピッチを狭めてしまうと、中底が切れてしまう恐れがあるからです。グッドイヤーウェルト式の場合は、(ソールを)ウェルトに縫い付けるという製法上、マッケイとは逆にピッチを狭く(細かく)縫う必要があるためです。
b、中底に縫い糸があるかないか
写真左が、グッドイヤーウェルト式製法の紳士靴内の中底。写真右が、マッケイ式製法の紳士靴内の中底。
グッドイヤーウェルト式(左)の場合は、本底(ソール)を外周のウェルト(コバ/細革)に縫い付けますので、中底に縫い糸がありません。それに対し、マッケイ式(右)は、中底とソールを直接縫い付けますので、中底に縫い糸(ステッチ)があります。ソールが縫いつけられた縫い糸です。
まとめ
以上が、グッドイヤーウェルト式と、マッケイ式を見分ける大きなポイントですが、 実際見た目だけで判別するのは難しいかもしれません。ソールに縫い糸を隠す伏せ縫いが施されていたりすると、アウトソールの縫い目が隠れてしまうため、「3-a、アウトソールの縫い目の位置とピッチの違い」の見分け方ができなくなりますし、マッケイ式でもダミーのウェルトがついている場合は「2-a、ウェルトの違い」の見分けが難しくなります。 ちなみに、筆者は「4-b、中底に縫い糸があるかないか」で見分けることが一番多いかもしれません。
ご参考
当店で販売する、グッドイヤーウェルト製法とマッケイ製法の紳士靴
当店で修理した、グッドイヤーウェルト製法とマッケイ製法の紳士靴
ブラックラピッド製法
グッドイヤーウェルト製法と、マッケイ製法によく似た製法で、「ブラックラピッド製法」という製法があります。
ブラックラピッド式は、アッパー(甲革)にマッケイ縫いで縫い付けた中間底(ミッドソール)と、アウトソールを出し縫いで縫い付けるという製法で、グッドイヤーウェルト式とマッケイ式の特徴の両方を合わせたような製法となっています。そのため「マッケイウェルト」「マッケイグッド(MG製法)」などと呼ばれることもあります。
ブラックラピッド製法の特徴(見分け方)を以下にご説明します。
上の写真は、当店でブラックラピッド式にて修理した靴の中底の部分の写真です。
マッケイ式同様、中底にはマッケイ縫いのステッチがあります。アッパー(甲革)と中底をマッケイ縫いで縫い付けているためです。
上の写真は、当店でブラックラピッド式にて修理したゴルフシューズです。
ウェルト(コバ)とソールには、グッドイヤーウェルト製法同様の出し縫いステッチがあります。
マッケイ縫いで縫い付けたミッドソールに、アウトソールを出し縫いで縫い付けているためです。
まとめ
中底にマッケイ縫いのステッチが見られ、アウトソールとウェルト(コバ)に出し縫いが見られる場合は、ブラックラピッド製法の可能性が高いです。
中には、アウトソールに「出し縫い」ではなく「マッケイ縫い」が出ている場合は、ウェルトの縫いはダミーで「マッケイ製法」の場合があります。出し縫いかマッケイ縫いかは縫いの位置の違いで判断します。
ブラックラピッド式の特徴は、マッケイ式の返り(屈曲性)の良さと、グッドイヤーウェルト式の頑丈さを持ち合わせていることです。
また、グッドイヤーウェルト製法の靴同様、出し縫いをほどいて縫い直すことでソール交換が安易なことも特徴のひとつです。