ハンドソーンウェルテッド製法(ハンドソーンウェルト製法)による靴の製造工程【ハンドメイド・手縫い靴・手製靴】
(文・イラスト/靴のパラダイス)
ハンドソーンウェルテッド(ハンドソーンウェルト)式製法とは
[Handsewn welted process]
ハンドソーンとは手縫いの意味。靴の中底にアッパー(甲革)を吊り込み、ウェルト(細革)と呼ばれる棒状の細長い革を巻きつけながら縫い付け(すくい縫い)し、最後にウェルトとアウトソールを縫い付け(出し縫い)する製法で、そのすべてを手縫いで仕立てる。もともと、ハンドソーンウェルテッド式だった製靴法を、19世紀初め機械化したのがグッドイヤーウェルト式なので、構造はグッドイヤーウェルト式製法とほぼ同じである。ただ、機械式(グッドイヤー式)の場合の中底のリブは、予め布製テープを接着してあるのに対し、ハンドソーンの場合は中底にドブを掘りおこしリブを作る。機械では難しい、手製でしかできない縫いなどが可能であるため、足に合わせた注文靴などにはハンドソーンウェルト製法が一般的である。また、使用できる素材(皮革)も幅広く、仕上がりも手縫い独特の柔軟性の富んだ靴に仕上がる。
製造工程
(文・写真/Saion 横山直人 編集・イラスト/靴のパラダイス)
1、中底にリブ作り
中底にウェルトを縫い付けるためのリブを作ります。
(※写真はサンプルシューズ用のもの。)
2、月型芯入れ
かかとの甲革と裏革の間に水溶性のセメントを塗り、カウンター(月型芯)を入れます。
3、釣り込み
全体のバランスを確認してアッパーを木型に沿わせ、釘で固定していきます。
4、ワニで釣り込み
釣り込みにはワニという専用工具を使用します。 木型の形状を再現できるよう十分に革を引き、シワができないように釣り込みます。
→ ワニ
5、釘打ち
つま先とかかとはカーブがきついので、より細かく釘を打ちます。 釣り込んだら余分な革をカットし、釘を内側に倒します。
6、すくい縫い
釘を抜きながら専用の針で穴を開け、ウェルト、アッパー、中底を糸で固定します。この縫いを「すくい縫い」と言います。縫い目の間隔は通常8ミリ前後で縫っていきます。
7、すくい縫い完了
すくい縫い完了。 写真はシングルウェルト仕様なので、かかとの部分のウェルトはタックスという釘で固定しています。
8、糸目を塞ぎ、シャンク入れ
リブを加工した際にとっておいた革で、すくい縫いの糸目を塞ぎます。 シャンク用の革を入れ、底面の形状を考慮して形を整えます。
9、中物を入れる
ウェルトと中底の段差をなくすため、中物を入れます。
写真はフィラーですが、コルクを使用する場合もあります。
10、本底仮止め
ウェルトを仕上がりに近い状態までカットした後、本底になる革を貼り付けます。 塗ってあるボンドは仮留めの為のものです。
11、余分な底材をカット
本底の余分な革を包丁でカットします。
12、ウィールで印付け
ウィールという工具を使って、ウェルトと本底を縫い合わせる際の印を付けます。 縫い目の細かさによってウィールを使い分けます。
13、ドブ起こし(ヒドゥンチャネル仕様)
今回はウェルトと本底を縫い合わせる糸を隠すヒドゥンチャネル仕様なので、 本底を1ミリくらいの厚さで開きます。この作業を「ドブ起こし」と呼びます。
14、出し縫い(だしぬい)
本底に糸を収める溝を掘ります。 専用の針でウェルトと本底に穴をあけ、松ヤニと油を擦り込んだ糸で縫い合わせます。この縫いを「出し縫い(だしぬい)」と言います。
15、ドブ伏せ(ヒドゥンチャネル仕様)
出し縫いが終わったら、開いていた革を元通りに接着して糸目を塞ぎます。(ドブ伏せ)
16、コバ面取り
コバの角を面取りして、最終的なコバの幅に整えます。
17、下ゴテ
コバをヤスリがけした後、ガラス片で削りサンドペーパーでなだらかにします。 水をつけて専用のコテで形状を整えます。(下ゴテ)
18、ヒール面を水平に
本底のかかと部分は丸くなっているので、革を一枚一枚積んで水平に地面に接地するように調整していきます。
19、ヒール釘打ち(隠し釘)
ヒールを積み上げたら釘で固定します。 今回はトップピース(化粧)に釘が見えないようにするため、隠し釘用の釘を打ちます。
20、釘の頭をカット(隠し釘)
隠し釘は打ち込まず、頭の部分を釘切りで斜めにカットします。
21、化粧付け
トップピース(化粧)を接着します。
22、ヒール形状を整える
ヒールの形状を整えます。 デザインによって大きさを変えたり、ピッチトヒールにしたりしてバランスをとります。
23、仕上げ削り
ヤスリがけの後、ヒールを水で湿らせてガラス片で削り表面をなだらかにします。 最後はサンドペーパーで仕上げます。
24、仕上げ削り(ヒール前方)
ヒール前方を包丁でカットして形を整え、同じようにヤスリ、ガラス片、サンドペーパーをかけてなだらかにしていきます。
25、サンドペーパー仕上げ
ヒール全体にサンドペーパーをかけた状態です。 サンドペーパーの番手は、100番、120番、150番の順にかけていきます。
26、色入れ
コバを専用のインクで染色します。 アッパーの仕上げを考慮し、インクをブレンドしたりしてバランスのとれる色にします。
27、コテでロウ入れ
コバにロウを塗り、熱したコテでロウを溶かして革に浸透させていきます。 革をより強固にし表面に光沢を出す効果があります。
28、ウィール・コテ掛け
熱したウィールで出し縫いの糸目を押さえます。 他にもヒールの上部など様々な箇所にコテで装飾をいれていきます。
29、ソール削り仕上げ
底面の表面をガラス片で削った後、サンドペーパーの100番、150番、240番で徐々になだらかにしていきます。
30、色入れ
底面を専用のインクで染色した後、ワックスで磨いて仕上げます。 半カラスの場合はマスキングテープを貼って塗り分けます。
31、仕上げ
革の素材感を活かしながら仕上げをします。 木型を抜き、つま先とかかとをさらに磨きます。最後に中敷を貼って紐を通します。
32、完成
完成したドレスシューズ。
※写真の靴は、ビスポークシューズメーカー「Saion(サイオン)」のサンプルシューズ。今回特別に許可をいただいて、製造工程の写真・説明を転載、編集させていただきました。Saionの横山氏にはこの場を借りてお礼申し上げます。